☆この足利弁の特集記事は足利漫我人編集室の了解のもと転載しております☆
月刊足利漫我人(足利マガジン) 編集長 渡辺啓子
特集(’85年12月27日号、’95年1月号10周年再特集)
足利のミニコミ誌 毎月27日発売 TEL 0284−44−2662
方言は日本の宝 足利弁『だがね。』 | |
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足利弁は、ぶっきらぼうでキツイ |
だがね! |
他にも終助詞は、いろいろある。 |
接尾語が付いたことばも多い。 |
語調を整えたり意味をつよめたり接頭語も多い。 |
促音便(っ)と撥音便(ん)が多い! |
音韻的特徴−−−つまり「訛り」のこと |
足利弁は栃木県唯一の東京式アクセント地域だ。 |
『やのあさって』は、いったいいつのことだろう? |
足利弁教養講座・応用編 |
よく言われるけど、これは一つの文がぶつ切りで短いことと、ぶっきらぼうで遠まわしに言うのを嫌う傾向のせいである。また、濁音が多く、鼻濁音がほとんど使われないこともきつく聞こえる理由の一つである。 栃木圏内でガ行破裂音(鼻濁音化しない発音)の地域は足利を始め、佐野、栃木など全体の20〜30%。ガ行鼻濁音は、小学校のときよく注意された。東京も本来鼻濁音をであったが使えるひとがあまりみられなくなり、現在は衰滅の一途をたどっている。 それに、足利弁は強調の接頭語が、やたら多いのも特徴。 こんなところが全体の特徴である。 栃木県の中で異質な、東京弁(江戸弁)に近いのが足利弁である。 |
やはり、足利弁の王様といえば、これだがね!この特集のた特集のタイトルにも使われているだがね。 というわけで、「だがね」の文法的解釈から始めよう。 「だがね」「がね」の2種類あり、「だがね」は主に名詞、「がね」は動詞や形容詞等につく。言い切ったあとに用い、断定したことの語調のひびきを和らげたり、念を押して相手に同意を求めたりする場合に使われる。文末のイントネーシ |
ョンによっては、非常に強い響きで相手を非難したり自己主張する事にもなる。 足利では老若男女問わず使われている言葉だけど、あらたまった席や目上の人に対してはあまり使われない。自分と同等または同等以下の相手や親しい相手に対してだけ使われている。 「だがね」と同じような使われ方をするのが「だに」。ただし、こちらの方が、ちょっとひかえめ。 |
他にも終助詞は、いろいろある。
べー。だんべー。 終助詞は文末や文節の終わりにつける助詞の事。 「だがね」とくれば、お次はモチロン「べー」の登場だ。「べー」は、関東六県から新潟・長野・山梨・静岡・東北にまでおよぶ広い地域で使われている。もともとは、文語の「べし」という推量の言葉だったらしい。 「べー」には、(1)推量(2)勧誘、(3)意志と三つの意味がある。 {例}(1)もうすぐ雪が降るだんべー。 (2)みんなで足マガ買うべー。 (3)勉強でもするべー。 「べー」の下に「や」を加えて、意を強くする」場合もある。「べーべーことば」と呼ばれる由縁である。 |
ん? 回想、疑問、詠嘆などの意味がある。特に疑問の意に使われる事が多く、尻上がり調に発音する。「の」の母音「O」音が脱落して「ん」になったらしい。 {例} 足マガ 買ったん。 け?かい? 「ん」と同じような使われ方をする疑問を表す接尾語、尻上がりに発音するのが特徴 {例} 足マガ、買ったけ? 足マガ、買ったんかい? |
その他 がな→「がね」と同じ。 ださ→佐野市に近い方面に多い。 で →強調するときに多く使う。 {例}足マガ買ったで。 だない→「です」「ます」に相当。 {例}いい天気だない。 だよね→「だない」と同じ。 めー→否定の「まい」の意味。 {例}しかたあるめー。 らー→「るよ」に相当する。 {例}足マガ買ってくらー。 らっせ→あがらっせ。来らっせ。 などなどいろいろある。 |
り。 「だがね」「べー」と並んで足利弁の御三家といえば、「り」。 『私、使っていない』『どこで使うか判らない』って言っている足利人知らず知らずのうちに使っているのが、コレ。つかみ所のない方言「り」、さてその実態は?引用を表す格助詞「と」の代りに使っているのです。 {例}車がサーッり、通ったがね。 「足マガ」り、書いてある。 「好きだ」り、言っていたがね。 つまり、副詞のような働きもしているのだ。「うっかり」「しっかり」「こっそり」など副詞には「り」で終るものが多い−−というのに関係があるのかもしれないぞ。 |
接尾語(語の末尾につく言葉)の
ついたことばも多い
・・・ぽ、・・・ぽ (1)先端、最初、はじめの意味 {例}さきっぽ、ひざんぽ (2)と国目立つ場所や人に付ける。 {例}あなっぽ(あなっぽことも言う) 医者っぽ (3)親しみのあるものに付ける。 ・・・げ 接尾語「気(け)」の濁音化したもの。推測される気配や様子を表す。 |
「・・・そう」「・・・らしい」の意味。これは共通語としても使われている接尾語であるが、とにかく足利では使用頻度が高いというのに注目。なんにでもつける。 {例}おもしろげ、来たげ その他、「先っちょ」「あいだっこ」「ちっとんべ」「めんこ(うどん)」「ありどん(あり)」「うそらっぺ(うそ)」など、さがせばまだまだでてきそうだ。 |
語調を整えたり意味をつよめたり
接頭語も多い。
この強調の接頭語が、足利弁が「ぶっきらぼうできつい」「けんかしている」みたいといわれる原因のひとつでもある。 これらは、動詞あるいは形容詞が二つ重なった複合語の前の部分が、促音便や撥音便となり、接頭語化したものである。 {例}ずっこしい→ずるい+こすい ふんのぼる→踏む+載る ほんなげる→放る+投げる↑ |
↓ このように、二つの動詞(形容詞)は同じような意味を持つ同義語の場合が多く、重なることによりさらに強調されている。 強調の接頭語自体は共通語としてモチロンあるのだけれど、なにしろ使われている数が多いのが足利弁の特徴。ホントに何にでもつけるている感じをうける。足利の人は言葉に感情移入が激しいのかもね。 |
おっ ★押(オシ)追(オイ)折(オリ)等の促音便 {例} おっかく(欠く・壊す) おっきる(切る) おっころぶ(ころぶ) おったてる(たてる) おっぴしゃぐ(ひしぐ=つぶれる) おっぽじる(ほじる) ☆撥音便としては「おんだす(追い出す)」等がある。 |
かっ ★掻(カキ・カイ)等の促音便 {例} かっきる(切る) かっくらす(くらわす=なぐる) かっぽじる(ほじる) ☆撥音便としては「かんます(かきまぜる)」とうがある。 |
つっ ★突(ツキ)等の促音便 {例} つっくむる(くるむ) つっけーす(突き返す) つっこぬける(突き抜ける) つっさす(突き刺す) 「つっとさす」とも言う ☆撥音便としては「つんばらたて(立腹する)」等がある。 |
ぼっ ★打・撃・撲(ブツ)等の促音便の「ぶっ」が変化したおの {例} ぼっかす(ぶち壊す) ぼっこむ(ぶち込む) ぼっころす(ぶち殺す) ☆「ぶっ」の例としては 「ぶっこわす(ぶち壊す)」 「ぶんまわす(振り回す)」 「ぶんまける(ぶちまける)」等 |
はっ ★張・貼(ハリ)の促音便 {例} はっけーす(殴る) はったおす(張り倒す) はっつける(貼り付ける) はっとばす(張り飛ばす) はっくらす |
その他 うっ→「おっ」が変化したもの {例} うっかく・うったまげる・うっとばす・ うっぱしる うん→「ぶん」が変化したもの {例} うんまける・うんまく とっ→取(トリ)の促音便 {例} とっちがえる ひっ→引(ヒキ)の促音便 {例} ひっからまる・ひっきる・ひっくらう ひっつれる・ひっぺがす・ひっつまむ |
という具合に後から後からどんどん出てくるわけだ。促音便と撥音便が解らない人に <解説> 発音の便宜上、単語の一部に起こる音の変化のうち「イ」「ウ」「ン」「ッ」となるもののこと。「ッ」と跳ねる音に変化するものに変化するものを『促音便』、「ン」と詰まる音に変化するものを『撥音便』という。促音便は調子良いがきつい感じを与え、撥音便は重く鈍い感じを与える。 |
促音便(っ)と撥音便(ん)が多い!
接頭語だけでなく、促音便と撥音便はやたらと多い。これは、足利弁だけでなく、江戸弁にも通じることだが落語に使われている言葉を思い出すと。 | {例} けんど(けれど) こんなか(このなか) しんない(知らない) まいんち(毎日) ゆんべ(ゆうべ) そばっかす(そばかす) |
音韻的特徴−−−つまり「訛り」のこと
『音韻』って言うのは、言葉を組み立てる音声のこと。足利周辺の「訛り」には、東北弁の影響を受けたものと、江戸弁の影響を受けたものと二種類ある。足利独自のものというのは少なく、そのほとんどが北関東全域のものである。 音韻変化、つまり音の変化としてまずあげられるのが、拇印転化。その代表が「イ」と「エ」だ。 |
イとウの区別ができない。 「いごく」←動く(うごく) 「いび」←指(ゆび) 「ゆわない」←言わない(いわない) 「おゆわい」←お祝い(おいわい) 「そーしると」←そーすると 「しこし」←少し(すこし) 「ぶるき」←ブリキ |
イとエの区別ができない。「つくい」←机(つくえ) 「けんかいぎえん」←県会議員 (けんかいぎいん) 「いんぎん」←いんげん 「めめず」←みみず 「えばる」←いばる 「えぼ」←いぼ 「あえま」←合間(あいま) 「いんぺつ」←えんぴつ 「えれる」←入れる(いれる) ★これは東北弁派の訛りの典型。 発音的にはイとエの中間音となる。これは若い人はつかわない。おじやん、おばやん(おっとこれも方言)は良く使うけど・・・。 |
オとウの区別ができない。 「うぶさる」←おぶさる 「かみすり」←かみそり 「むる」←漏る(もる) 「もこう」←向こう(みこう) 「あすこ」←あそこ 「あすび」←遊び(あそび) 「むぐる」←潜る(もぐる) 「ふるしき」←風呂敷き(ふろしき) その他にも イとアの区別ができない。 「まざる」←混じる(まじる) オとアの区別ができない。 「まっと」←もっと 「こんだ」←今度(こんど) 「あぐろ」←あぐら |
これが母音転化だ。次ぎに子音転化、つまり同じ母音を持つ子音が変化する例をあげてみる。 | |
ヒとシの区別ができない。 これは江戸弁の典型。 「しと」←人(ひと) 「きょーひつ」←教室(きょーしつ) 「ひち」←七(しち) 「しとくち」←一口(ひとくち) 「しよひがり」←潮干狩り(しおひがり) ★これは「ヒ→シ」だけでなく、「オ→ヨ」という子音転化もある、Wパンチだ。 |
その他にも、 ブとムの区別ができない。 「けぶい」←煙い(けむい) 「さぶい」←寒い(さむい) ヨとオの区別ができない。 「いきよい」←勢い(いきおい) ボとモの区別ができない。 「ひぼ」←ひも スとツの区別ができない。 「まっつぐ」←まっすぐ という具合に、子音転化も数多く見られる。 |
シャがサとなる。 シャ・シュ・ショがサ・シ・ソとなる。濁音も同じ。逆もある。 「さしん」←写真(しゃしん) 「しるい」←種類(しゅるい) 「しちょう」←主張(しゅちょう) 「しじつ」←手術(しゅじゅつ) 「みんししぎ」←民主主義 (みんしゅしゅぎ) 「しゃかん」←左官(さかん) 「しゃじ」←匙(さじ) |
連母音の変化も 音韻的特徴。 アイがエーとなる。 「へーる」←入る(はいる) 「はえー」←早い(はやい) アエがエーとなる。 「けーる」←帰る(かえる) 「おめー」←おまえ イエがエーとなる。 「めーる」←見える(みえる) オイがエーとなる。 「しつけー」←しつこい ウイがイーとなる。 「ふりー」←古い(ふるい) |
その他、ガ行音、タ行音の濁音化も見られる。 「いぐ」←行く(いく) 「がさばる」←かさばる 「じでんしゃ」←自転車(じてんしゃ) 「ぎばせん」←騎馬戦(きばせん) 清音の濁音化は重く鈍い感じを与えてしまう。中でも「いぐ」はよくつかわれていて「いがねー」「いぎたい」「いげば」「いごー」と変化する。 |
足利弁は栃木県唯一の東京式アクセント地域だ。
栃木弁と言ってまず思い浮かべるのが、尻上がりでアクセントが変・・・ということ。栃木県のアクセントは崩壊アクセントで、同音異義語を区別する事が出来ない。つまり「橋」と「箸」の区別が付かない。この地域を無アクセント地域と言う。栃木県の90%はこの無アクセント地域 そしてわが足利と阿蘇郡飛駒地方だけが東京式アクセント(多型アクセント)地域なのだ。ちなみにあいだにはさまれた佐野と阿蘇郡の大半は曖昧アクセント地域。 |
もっともずっと昔は、県内全部が多型アクセントだったらしい。ところが東北弁の影響を受けてか、無アクセントの勢力の強さに押しやられ、現在では足利方面だけがのっこっている。 では、ここでアクセントチェック (1)鮭、酒(2)雨、飴(3)箸、橋(4)牡蠣、柿(5)切る、着る 先の単語は語尾が下がり。同じ発音であったら無アクセントに汚染されていることになる。 |
『やのあさって』は、いったいいつのことだろう?
明後日 | 明々後日 | 明々後日の翌日 | |
関東甲信越 | あさって | やのあさって やなあさって |
しあさって |
関西地方 | あさって | しあさって | やのあさって |
東京方言 | あさって | しあさって やのあさって |
足利弁教養講座・応用編(85年特集号から)
講師:青木佳代子先生
さて、いよいよ応用編です。講師は『歩く方言』青木佳代子先生です。
「えー、こんなこといってないよ!」というキミ、フッフッフッ。
知らず知らずにけっこうつかっているんです。
下記例文で解らない時は足利弁辞典を参照
<例文1>
☆「おめーわあ、来るんがおせーがな。もう来(き)ないかと思ったがね。」
★「しょーがねーがな。走って来たらサ、あすこの階段のすばででんげっちゃったい。」
☆「でーじょーぶけ?」
★「ああ、それより、今、いくじ(何時)。」<例文2>
☆「へえー、これ、いんねー。なんでできてるん。」
★「これっけ?、これはサ、プラッチックだべー。でも、ぼっとすると水がむるかもしんねッ。」<例文3>
☆「明日の朝、どこいくん?」
★「織姫山でも行ぐべや。」
☆「朝っぱらから、あんなば行ぐのよすべー。いまっとおもしれーとこにすべーよ。」<例文4>
☆「足マガ買うべーよ。」
★「やだ。おれ、買わねーでけ(帰)ーる。」
☆「買うべーよ。」
★「しつッけーな。おめーは。」
☆「かわねーと、はっくるけすぞ。」
★「おお、こえー。」<例文5>
☆「あすこの信号曲がるん?」
★「まっつぐいってくんな。」
☆「今、サーッり曲がった車があったがな。うしろんとこがぼっこれててすげかったよ。」
★「見ねかったよ。おっ、あのオートバイはえー。」<例文6>
☆「おじさん!そこどいてくんなよ。前がめーねーがな。」
★「わりー、わりー。」
☆「あいて(痛い)、足ふんずぶるなよな。」<例文7>
☆「あらいまてしてたら、茶碗おっかいちゃったい。」
★「がしょうきにやるからだがなね。まわりに水がうんまかてるべー。いまっとそろーかにやんなくっちゃダメだがね。」
☆「風呂へーるかな。」
★「あちーから、うめてっからへーてくんな。」<例文8>
☆「おれなんか、もこうの木んとこまで、石が投がるで。」
★「よーし、競争すべー。」<例文9>
☆「紅茶に砂糖、入れるん。」
★「ちっとんべ。ちゃんとかんましてくんな。」<例文10>
☆「あたしも、すいて!」
★「ああ、たまげた!みっちゃんか。すいてやるよ。みっちゃん、あみさげのひもがほどけてるで。」<似顔絵>
&『歩く方言』と言われた、青木佳代子先生の言い訳&
あれは、まだ暑い頃、あるスナックで酒飲みをしていた時、アルコールのためにすべりの良くなった私の口から出てくるお言葉を聞いていた編集長殿が、「今度足利の方言特集をやるから、そん時に来てもらおう。」といったけな。
もうっ、こんな文ばっか書いていたら、明日はどうするんだよう。これでも昼間はカタギな仕事をしているんだぜえ。信じてよ、あなた!本当の私は違うのよ。困るじゃないの。ムコ探しに影響してしまうんではありませんか。
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最終更新日 : 2006/02/21