19 06月29日

一生懸命とは、こういうこと・・・かな

 「許暴走族の予備校教師」なんていう肩書きで、オレも少しは名が知られるよう
になったみたいだ。しかし、不良が改心して立派に更生した、などどは思わない
で欲しい。オレ自身は、今でも目一杯「つっぱって」生きているつもりだし、ご立派
な人間に生まれ変わったわけでもないからだ。いや、ある意味では不良していた
頃よりも頑固につっぱっているかもしれない。こんなオレの今までの経緯を少しお
話しよう。
 二十歳の頃、オレの人生に一大転換期が訪れた。最愛の彼女が、オレの許を
去ったのである。「やっぱり、大学くらい行ってくれないと・・・」という言葉を残して
・・・ショックだった。中学、高校のあいだケンカに明け暮れ、暴走族では特攻隊
長までいたオレは、勉強などほとんどしたことがない。それでも一生懸命働けば、
彼女と幸せにやっていけると信じていた。その彼女が、先の台詞を残して大学生
の新しい彼へと走って行ったとき、オレの心はボロ切れのようにズタズタに引き裂
かれてしまったのである。
 つっぱって生きて来たオレも、一時は自殺を考えたほど落ち込んだが、そのうち
だんだんと持ち前の反発精神が湧き起こって来た。「なめんなよ、このやろう!大
学ぐらい行ってやろうじゃねえか!」と。本当に彼女のことが好きだった分、憎らし
い思いも強く、なんとしても大学に受かってやる、と固く固く決意した。それが9月、
受験まであと4ヶ月しかないときだった。
 さて決意まではよかったのだが、なにしろ当時のオレは小学生ほどの学力さえお
ぼつかないような状態である。働きながら塾に行き始めたが、授業はまるで理解不
能で、講師の放つ言葉は、宇宙人の話を聞いているようなものだった。「どうすれば
いい?このままじゃラチがあかない」どう考えても大学に合格など不可能なことに思
えて絶望的になったが、とにかく「やるしかない」と改めて覚悟し直した。これはオレ
の意地とプライドがかかった大勝負だったのだから。
 仕事をやめ、1日20時間、ひどい時は3日も寝ずに勉強しまくった。眠気を覚ます
為に、手に針をさしたりもした。なにせ一から十までわからないのだから、わかるよ
うになるまで、基礎から徹底的にやり続けるしか方法がないのである。辞書もちゃん
とひけない英語はあきらめ、国語と日本史で満点を目指すしか、合格の可能性はな
い。そう判断したオレは死に物狂いで勉強し、そして國學院大學に合格することがで
きたのだ。思えば、この時の拷問のように苦しかった受験勉強が、このあとのオレの
生き方を明確にしていくきっかけになったようである。
 極端に遅れていた勉強をやり直すには、他人と同じ方法ではどうにもならない。他
人からは無茶に見えても「自分を基準」にして、自分だけのやり方を考え出し、それ
をやり通すしかないのだ。懸命に頑張りぬけば、必ず道は拓ける。次第にオレは、自
分らしい生き方を見つけ始めていた。
 受験勉強をしていく中で、古文に魅力を感じていたオレは、大学で古文を学んだ。
中学、高校時代すでにさんざん遊んでいたので大学生になったからといって、とくに
遊ぼうとは思わず、家庭教師や予備校のバイトをしながら古文の勉強に熱中した。
家庭教師では、成績の良い子は断り、成績の悪い子を教えるようにした。オレ自身
挫折から這い上がってきたので、挫けている奴を這い上がらせてやりたかったのだ。
また、頑張らなくても適当に生きていける時代、受験はそいつ自身頑張る経験をする
いい機会にもなる。
 掛け持ちでやっていた代々木ゼミナールのバイトも調子は上々だった。そうこうして
いるうちに、卒業が近づき、代ゼミの講師にならないかとの誘いを受けた。オレもその
気になったが、コネで簡単に入れてくれるほど、甘い世界ではない。結局新卒採用
の試験を受けることになったのだが、やはり天下の代ゼミである。試験を受けに来る
のは、超一流大学の連中ばかりでオレなんぞ見下ろすような奴らだった。
 「なめんなよーてめーら。オレは絶対に負けねーからな!」とそのとき心の中で叫ん
だ。試験を受けることが決まってから2ヶ月間、4年間熱中した古文をもう一度復習し
なおしていた。死ぬほど苦しかった受験勉強と比べれば、好きな古文の勉強などい
っくらやっても苦にはならない。これも挫折からはいあがってきた効果かもしれなかっ
た。そして、オレは代ゼミ始まって以来の最高得点をを取り、古文の講師として採用
されたのである。
 エリートとは「選ばれたもの」という意味だが、それならば自分の基準で自分を選ん
でやればいいのだ。こうして「自分だけのエリート街道」を作り、そこをつっぱしればい
いんじゃないのか?そこで自分の目指した「てっぺん」がとれれば、他人の目にどう
映ろうとも、「うまく」生きられたことになるはずだ。そして、てっぺんをとるためには、理
屈ぬきで一生懸命やることしかないと、俺は強く信じている。
            ―――――現、代々木ゼミナール講師 吉野敬介先生談

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