26 09月12日

続、1982年斎藤少年も17歳

 日中を中心とした別荘外では何をしていたのかという話をします。辺りはわさび
の産地として結構有名なため、まずはわさび園に行きました。それまで、わざび
はチューブの中に入っているか粉のものなのだ、という認識しかなかったのです。
植物であること、しかも冷たくて澄んだ水がなければ育たないことを知って「あー、
なんて美しい食べものなのだろう」と思い、わさびフリークになってしまいました。
今では、生のままスライスしても食べますし、わさび漬けなどは、そのままばくば
く食べてしまううちに、容器が空になってしまう程です。以来、何処かに行くと必ず
といってよい程、わさび漬けを買ってきてしまいます。
 先にも話をしたように、炎天下はとにかく暑いのです。海もプールもないので、必
然的に川で泳ごうということになりました。歩いて30分程の所に、穂高川という川
が流れていました。幼い頃は釣り好きな父とよく川に行き、泳ぐというか、水につか
っていましたが、高校生にもなって川で泳ぐとは思いませんでした。川は汚いもの
という認識がついてしまっていたのです。
 その穂高川の見た目は、まあきれいでした。地元のヒトであれば泳げる川かどう
か判断できるのでしょうが、我々にはそんなことはわかりません。川の横に「1級河
川」と言う表示を見つけ、「1級なのだから国が認めたきれいな川なんだよな」「わさ
びが育つ程きれいな水がある土地だぜ」などと納得しながら、じゃばじゃばと遊んで
いました。たまに通る地元のヒト達の視線が気になりましたが、裸好きな我々にそん
なことはお構いなしです。
 後でわかったことなのですが、1級河川だからといってきれいだとは限らないのでし
た。そういえば川幅10メートルもないような川だったかもしれません。もしかしたら、
いわゆるドブ川に近かったのかもしれません。
 さて、夜のお遊びです。高校生の夏の夜遊びといえば花火です。初日にしっかりと
西友で購入しました。どういうわけかロケット花火ばかりです。我々の別荘から数十
分の所には、何軒かのペンション風の宿があります。そんな宿には我々のようなヒト
達は泊まりません。初日に歩いて通りかかった時には、アベック達の姿が見えました。
男5人には刺激が強すぎました。
 深夜に我々がそこで何をしでかしたかは、話せません。諸君の想像に任せます。
 そんな花火遊びを終えた我々は、別荘周辺の探検も始めました。小高い丘の上に
ある別荘地を、どんどん登っていったのです。明かりが灯り、ヒトの気配のある別荘
もありましたが、道は次第に狭く暗くなってきます。上に行くにつれて、徒歩でしか入
れないような道になり、あたりにはうっそうと草木が生い茂ってきます。
 そこまでは怖さと緊張とで良くわからなかったのですが、ふと足もとを見ると、なに
やら光るものが見えます。うわっと驚き、目を凝らしてよく見ると、なんとホタルの幼
虫でした。葉にじっとしている姿こそグロテスクなものの、光を放つ姿は成虫そのもの、
初めて見たホタルです。辺りを見渡すとあちらこちらで光っています。言葉を失ってし
まいました。
 もう何もないだろうと、別荘地を下り始めて、ようやく車の走れるような道に出た時で
す。誰かが「うわっすげー空」と叫びました。その声につられて皆空をみあげます。何
やら星が出ているのはわかるのですが、雲が出ているようでした。よく見ると、雲に見
えたものは星の集団でした。日本語でいう「天の川」、英語でいう「ミルキーウェイ」なん
てものが頭上に広がっているのです。
 今度は言葉を失うどころの騒ぎではありません。皆声をあげて感激しています。なにし
ろ天の川なんてものは存在しないものだと思っていたのですから、その驚きと感激には
はかりしれないものがあるのです。誰ともなく道路に寝転がり、天体観測会です。いかつ
い男が5人、1時間近くも星空を眺めていました。都会育ちの我々にとって、この夏一番
の出来事でした。
 おもしろいことにこの時の旅の思い出は、そこから先がぷつっと途切れているのです。
行った時と同じように夜行で帰って、なんだかんだとあるはずなのですが、何も覚えてい
ないのです。それだけ私にとって、いや、私達にとって衝撃的な経験ができた夏だったの
だと思っています。
 その証拠にこの時の友人達とは、今でも飲むことがあるのですが、この時の話になると
いい歳こいて、熱くなってしまうのです。諸君がこの夏、どういった経験を積んだかはわか
りませんが、この夏の陽気に誘われて思い出したこの話、少しは役に立ちましたかね。
 といっても夏休みはもう終わってしまったので、来年に向けての参考にでもしてください。
写真もたくさん残っているのだけど、見せるわけにはいかないのだな。

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