155 01月22日

お宝。

 ポール関連ということで、もう少し我慢して読んでください。
 その、大好きだったポールが、自己のバンド、ウイングスを引き連れて来日コンサートをすることになりました。場所は日本武道館です。以前ビートルズで来日してコンサートをしているのですが、その時はポールのポの字も知らないお子ちゃまでしたから、コレは行くしかない!という感じで、友人数名と盛り上がりました。音楽関連の仕事をしている友人の父親に取りはからってもらい、ずうずうしくも入手困難なチケットを買った我々は、さらに大盛り上がり状態になっていきました。
 「ポール入国不可。大麻所持で逮捕!」 来日当日、目を疑うようなニュースが入ってきました。「こっ、こっ、こっ、こっ、こっ、コンサートは・・・?」 「どうなるんだろう?」 「ひやーっ!」 「チケットどうなっちゃうんだ!」 ・・・・・・我々は大慌(あわ)てです。目の前真っ暗です。こういうのを、「清水(きよみず)の舞台から飛び降りた気持ち」 というのでしょう。いや、嘘です。たとえるなら、「清水の舞台から突き落とされた気持ち」 とでもいいましょうか。(ちなみに←の後のような表現は無いので使わないように)
 結局日本コンサートは中止、チケットも無駄になってしまいました。チケットは 「幻の日本公演」 ということで、我が家のお宝にしようと固く心に決めた私がいました。
 そんな我々の気持ちがおさまるわけがありません。本当ならコンサートをやっているその日時に、日本武道館に行こう、ということになりました。
 ウイングスのライブアルバム(なんとLPレコード3枚組)をカセットテープに録音して、大きなラジカセを抱えて我々は電車に乗り込み、武道館に到着しました。するとどうでしょう、いるわいるわ、我々と同じようなヒト達がたくさんいました。そんなファンのヒト達が押しかけるのを予想してだと思いますが、係員やら警備員のヒト達もたくさんいます。
 「おーい、本当はコンサートやるんじゃないのかぁ〜!」 「ありません、コンサートは中止です」 「ポールを出せ!」 「ここにはいません。皆さんどうかお帰りください」 「チケット代返せぇ〜!」 「あちらで払い戻しをしています」 「コンサートやれ〜!」 「できません。もうしわけありません」
 あちらこちらでこんな会話が聞こえて来る中、我々は正面入り口の階段脇に陣取りました。そしてラジカセのスイッチオン!スピーカーからポールの声が響く中、我々は曲が終わるたびにラジカセ向かって拍手をしていました。案の定係員が近付いて来ました。
 「すみません。迷惑になりますからお帰りくださいますか」 「やだよー。わざわざ横浜から来たんだからさー。いーじゃんよー!」 「いや、でも・・・」 「じゃーコンサートやってくださいじゃんよ」 「そそ、それは・・・」 「じゃー放っておいてじゃんよ」 ・・・・・・
 中学生の暴走は止まらないものですが、引き続き盛り上がっているうちにテープは終わりました。かたわらに敷き詰めてあった砂利で、芝生の上に大きな 「W」 のロゴマークも作りあげたので、それなりの満足感にひたって帰り支度をしている我々でした。そんな中、友達のひとりが言いました。
 「みんなの分のチケットも払い戻ししておいたよ!はい。これそのお金・・・」
 がーん!お宝粉砕・・・・・・涙。
 ちゃんちゃん! 


もちろんきみは特別な人です。でも、誰かより、特に特別なわけじゃない

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