040 06月10日

親友から諸君への原稿。(数年前に書いてもらったプロの文を読んでくれい) 

 記者という仕事のせいでもないだろうが、仕事以外でも人と話をするのは嫌いじゃない。タク・・・もとい、斎藤教諭のような旧友との話は実に楽しいし、初対面の一見取っつきにくい人でも、酒などを呑んで話してみると意外と面白いものだ。特に酒場のような場所は、人の本音が聞けるので興味深い。
 新宿区のわが陋屋(ろうおく=住み家)近くに、行きつけの屋台が1軒ある。屋台なのにカウンターバーという珍しい店で、マスターは30過ぎの元プロのドラマー。自分で作った骨組みに作業用シート、木のカウンターにビールケースの椅子という店。しかも灯(あかり)はローソクだけ。いい酒と旨い料理がある実にカッコいい屋台なので、タ・・・斎藤教諭もすでに連れて行った(成人したら招待するから、行きたい人は教諭まで連絡すべし)。もっともマスターは剛毅(ごうき)かつ頑固な性格で、これらに堪えられる客が常連となる。
 生き残っている客は多種多様だ。――面倒見のいいシングルマザーのキャリアウーマンと、その友人。広告関連のアートディレクター。スペイン舞踊(ぶよう)を踊る日本人女性に、スペイン人のハンサムなギタリストと太めの歌い手。西麻布のバーの店長。銀座の寿司屋の板前。まるで親子のようなカラオケボックスの女主人と店員。山を愛するテレ朝のディレクター。アルファロメオ専門のメカニック。元自衛官で、現SPの格闘家。マスターの後輩のバンドマン。東京ガスに就職が決まった大学生。音楽好きのフリー記者(おっと、私だ)。そして、バイトと洋服作りに精を出すマスターの同居人――。
 仕事も、年齢もバラバラ。共通点は、同じバーに通っている点だけ。でも、常連として残っている客同士は実に仲がいい。マスターも含めて、しばしばマジメに語り合い、時に相談し合い、助け合う。集まって旅行に出かけることもある。互いの存在が、仕事や遊びにいい影響を与え合っている。何が言いたいかって?つまり、この人達は酒場で語り合うことで、互いに 「ヒトという財産をたくさん築いた」 ということである。
 諸君も高校を卒業すれば、就職、進学、浪人(私も1浪だが、浪人は貴重な経験だと思う)を問わず、徐々に同級生や先輩後輩との交流が減り、”新しい知人”と出会うチャンスが増えてくるだろう。その時には流行(はや)り廃(すた)りの話だけじゃなく、新しい知人と一度でいいからマジメな話をすることを勧めたい。マジメ、と言っても四角四面のツマらない話じゃなく、腹を割った話という意味。自分の正直な意見、将来設計、身の上相談でも身の下相談でもいい(いや、初対面の人に身の下相談は避けるべきかな)。こういう会話を一度でも交わした相手は、ながく記憶に残る存在となる。そんな人々が、やがては大切な財産となっていく。私は寂しい事にカネもモノもあまり持っていないが、幸いにしていい知人に恵まれた。そもそもフリーの取材記者で食べていけるのも”仕事を紹介してくれる人”あってこそ。いい知人は、時に”生活を支えてくれる”財産にもなってくれる。
 この学級通信を読むと様々な人が登場している。つまり斎藤教諭も、これまでにいい財産をたくさん築いてきたということだ。(オレも財産だよな、そうだと言ってくれ、タクーッ)。そして斎藤教諭は 「○○○○高等学校の生徒」 という新しい財産を手に入れ、諸君も 「タクさん」 という財産を獲得したハズだ。学校でも、職場でも、飲み屋だろうと、そういう人と知り合うチャンスはある。だが、いくらカネを積んでも買う事は出来ない。いい財産が築けるかどうか、それは、人と腹を割って付き合えるかどうかにかかっている。
 う〜ん、こんなに長々と、しかも説教クサい話をするつもりはなかったのだが・・・でも前途有望なバ、いやいやワカモノに読んでもらうと思うと、月刊誌の穴埋めページみたいに気楽には書けないもんだなぁ。あ、今の発言、○○出版の編集部にはナイショにしてね。  


すぐに人を判断しないこと。あなたがばかにしている人の話をよく聞いてみるといい。大切なことを教えてくれるはずだ

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