088 09月29日

さ。 

 10数年前、この地で仕事を始めた時、私は言葉の壁にぶち当たりました。
 最初の年、2年生の副担任だった私は、毎朝のように正門に立ち、登校してくる生徒達に挨拶をしていました。
 「おーい、チャイム鳴ったべぇーだ!急げ!」
 一緒に立っていた先生が、突然叫びました。
 『べ、べぇー?』 『べぇーだぁ?』 『べぇーってなんだ?』 『チョコべぇー(昔流行ったお菓子の名前)?』 『ダースべぇーだぁ?』 『長(ちょう)べぇー(○校時代によく行っていた居○屋)?』
 その瞬間、アタマの中で何だろう、とあれこれ考えました。「チャイム鳴った」 まではわかるのですが、其の後が 「べぇー」 なのか 「べぇーだ」 なのか区別がつきませんでした。うーんなんだろう、とその場を後にして授業に向かい、昼休みになってはっとひらめきました。「べーだ→ばかりですよ」 という図式がアタマの中で完成したのです。←嘘のようなハナシですが、本当のハナシです。
 「・・・るん?」 「・・・なん?」 や 「あーね」 なんてのもカナリ気になりました。きちんと言うと、「・・・るのですか?」 「・・・なのですか?」 や 「ああ、そうですね」 となる言葉です。前出の 「べー」 と共通しているのは、言葉を省略して発音しやすくしているという所でしょう。
 「みしめる」 とか、語尾に付く 「さ」 や 「だべ(だんべ)」 なんてのも含め、それらは私にとって 「へんなコトバ」 となってしまいました。『こんなへんなコトバ使ってたまるか、そまりもしないぞ』 なーんて意気込んでいる私がいました。だってね、方言といったら東北や九州や関西地区のものしか認識していなかったのです。関東地区にあるとは思いもしなかったのです。ま、学(がく)が浅いと言われればそれまでです。国語の教師のくせに・・・。

 「お前、ちゃんとやるって言ったんべな!みしめてやんなきゃ駄目だんべよっ」

 瞬間、 『しまった!』 と思ったのですが、もう遅すぎました。あ〜あ、言っちゃった・・・、数年後、生徒を叱っていた時の私です。慣れとか習慣とかいうモノは恐ろしいものです。
 妻は群馬出身栃木在住だったヒトだったので、その後の身の周りは 「北関東語」 のオンパレードとなりました。「かんます」 「はぁー・・・」 「だいじ」 「なっから(なから)」 「・・・がね」 「・・・り」 ・・・・・・。 探し出したらキリがありません。妻と別れて再び独りモノになってしまった今でも、私の身にすっかり馴染んでしまってるようです。
 「なぁ、前から言おう言おうと思っていたんだけど、お前さ、言葉の中に 『さ』 が多いぞ。変な所に  『さ』 が入るんだよな」 いつだか大学時代の友人と呑んでいる時に、彼から出た言葉です。そう、さっき書いたように、最初は 「さ」 の使い方が気になっていました。友人の言葉を聞いた時、「ああ、そうそう、そうなんだよ、わかっているんだけどさ、出ちゃうんだよな」 と答えながら、私は蒼くなっていました。
 だってね、どこで言った 「さ」 が変な所なのかわからなくなってしまってるんだもん。
 困ったっちゃん。 


遊んでいる子どもをよく見てみよう。集中力の秘密がそこにある

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