167 03月01日

1。 

 諸君の担任をさせてもらってまだ間もなかった6月の半ば、父が危篤状態になりました。諸君を放ったらかしにして、父の入院している都内の病院に向かい、涙をポロポロ流しながら、もう後がないであろう父と対面してきました。その後、いつ父が逝ってしまっても平気だぞ、という覚悟を決めながら、日々を過ごしていた私がいます。覚えてくれているでしょうか。
 Positiveなんていうタイトルの学級通信を諸君に毎日書いてきた私は、本音の部分ではもの凄く弱い人間だと思います。今、この原稿を書きながら父が倒れた当時の学級通信を読み返していてたら、また涙が出てきそうになっちゃいましたから。そんな私がここまで頑張ってこられたのは、3年1組の担任をさせてもらい、そこに諸君がいたからだと思っています。いや、間違いなくそうなのです。上に書いた父の時だけではありません。私は何度も諸君に救われてきました。
 この1年間、私は10分休みだろうと、昼休みだろうと、放課後だろうと、なるべく諸君の近くに居るように過ごしてきました。諸君の笑顔が欲しかったからです。笑顔の絶えない諸君のそばに居たかったのです。笑顔といっても、何か無責任なことをしでかして、その場から逃げ出すために、ニヤニヤと笑ったようなものではなく、ヒトとして明るく笑いあった笑顔です。諸君の日常から生まれる、そういった笑顔が欲しかったのです。
 人間の笑顔は、苦しみ、悲しみ、悩みを乗り越えるだけのパワーを生み出すことができます。そして、そのパワーの源(みなもと)にあるものが、我々が誰でも持っている 「楽天性」 です。『現実を最良の世界とみなし、人生は善であり、愉快であり、希望は実現されると考え、人生に明るい見通しを持っていること』 と、ものの本には書いてあります。この1年間、私は諸君の持つ、この 「楽天性」 のおかげで、数々の苦しみを乗り越えてくることができました。実はそんな素敵な諸君になるように、昨年度一年間を担任してくれた山田先生と中澤先生に感謝している私がいます。ありがとうございました。恥ずかしいけれどもお礼を言わせてもらいます。
 覚えておいてください。この 「楽天性」 は、我々人間の持つチカラの中で、最大最強の武器です。誰にでもつらい時はあります。諸君もこの先の人生で、どれだけのつらい思いをするかわかりません。そんな時、つらければつらいほど、笑顔で笑う、ということを忘れないでください。「楽天性」 という武器は、どんなものにでも立ち向かっていくことができるのですから。その影響力は、自分であろうが他人であろうが、測(はか)り知ることができない程無限大です。このことを絶対に忘れないでください。
 諸君がいなくなる明日からの教室はどうかわかりませんが、私が学校の中で一番好きな場所が、諸君のいるこの教室でした。そして、諸君が私のことをどう思っているのか知りませんが、私は諸君のことが大好きでしたし、きっとこれからも大好きです。こんな担任で申しわけありませんでしたね。2年後に再会できることを楽しみに胸にしまって、3月1日、3年1組の日、167通目となる最後のラブレターを終わりにします。
 卒業おめでとうございます。諸君の担任が出来て幸せでした。本当にありがとうございました。
 さようなら。

                                   平成17年3月1日    斎藤 拓


教え子はいつか友達になる

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