122 11月11日

11月11日。 

 元気ですか。今、職員室で貴方に書いた4通の手紙を読み返していました。もう4年も経つのですね。5通目の手紙を書きます。
 今年は1年生の担任をやらせてもらってます。貴方が約3年間着ていた緑色のジャージの学年です。今月22歳になる貴方から見たら、6歳年下の学年です。時が経つのは早いものです。私も40歳になりました。
 実は数日前、本校の女子生徒が自ら命を絶ってしまう、という悲しい出来事がありました。普段はそんな様子も無く、貴方のように積極的に学校生活に取り組んでいたとのことです。彼女の中で何があったのかはわかりませんが、彼女なりに考えて考え抜いた上での、最後の決断だったということは間違いありません。
 まだ人間として十数年しか生きていないという小さな心で、誰にも相談せずに精一杯考えたのです。どんなに辛かったことでしょう。どんなにさみしかったことでしょう。直接知っている生徒ではありませんが、小さな心で必死に悩み続けていたであろう彼女の姿を想像していたら涙が出てきました。
 今週月曜日のホームルームの時間、彼女のこと、そして貴方のことを話して、「命」 というものの大切さ、尊さ、はかなさを再認識させてもらいました。余計なことも話してしまったかもしれません。だとしたらごめんなさい。けれども人一倍明るかった貴方のことです。きっと笑って許してくれていると確信しています。
 今思えば本当に貴方の思い出はたくさんあります。1年生の時は私のクラスの中心的な存在だったこと。スキー教室の宿の部屋で夜中にごんじりを食べて、部屋をごんじり臭くしたこと。三者面談中に、泣きながらの親子喧嘩をしてくれたこと。国語の時間のスピーチでは、何十分も人を飽きさせない楽しい話をしてくれたこと。
 まだあります。持ち帰らなかった私物を取りに来た夏休み中、職員室で出前のラーメンをおごってあげたこと。そのラーメン屋にいつだかの放課後、一緒に食べにいったこと。夏の甲子園応援出発の時、一緒になってシューシューと髪の毛を黒く染めたこと。個人ノートには毎回楽しいイラストと文章が書いてくれたこと。人一倍へこみやすいのに、皆の前ではほとんど強気な自分を見せていたこと。そんな時にはほぼ私に電話をかけてくること。
 まだまだあります。1年生最後の日のホームルームでは、清掃用具箱に隠しておいた大きな花束を抱えてきてくれたこと。携帯電話代を自分で払うために、いくつもアルバイトをやっていたこと。卒業後は都内のファッション・デザイン系の専門学校に進学を希望していこと。そして、卒業まで数ヶ月、4年前の11月11日に原付自転車の事故で貴方が逝ってしまったこと・・・・・・。
 こんな感じで在学中はものすごくパワフルな貴方でした。3年生の時は、同じ駅を利用していたというだけで、全く面識のなかった後輩の相談相手をしてくれていたほどの貴方です。今頃は貴方と同じ11月にそちらに逝ってしまった後輩の、よき相談相手になってくれていることだと思います。頼みますよ、裕子さん。
 今日はマラソン大会でした。今年もこの手紙を持ってこれから会いに行きます。
 待ってろよー!
                                                     たー 


あんたにいいところはないかもしれない。それでも私はあんたのお母さんでよかったと思う

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