ZP10 08月13日

ちゃー坊。(いつもの続きだね)

 いつもの帰り道、いつもと一緒、胸のポケットラジオからはご機嫌な音楽が流れる中、私達は歩いていました。「みゃー、みゃー」
 「あ、ネコ」 「ホントだ」 「かわいぃ」 「ホントだ」 「まだ赤ちゃんだ」 「ホントだ」 「ふさふさだよ」 「ホントだ」 「きゃー、なめてくるよぉ」 「ホントだ」 「いや〜んっ」 「・・・・・・!?」 「あ〜んっ」 「!!!!!!」
 帰り道で見つけてしまったその子猫と別れることが出来ずに、結局連れて帰ることになりました。ウチにはインコのぴーちゃんが既に家族の一員としての地位を確立していたため、彼女のウチで飼おうということになりました。
 茶色と白のうすら縞模様のその子猫は「ちゃー坊」と名付けられました。ちょっと大き目のダンボールをもらってきて、ちゃー坊の家を作りました。たっぷりと入れてあげたミルクを一生懸命に飲んでいます。これからこのちゃー坊と一緒の生活が始まるんだ、と彼女は大喜びでした。その日は二人でちょっと遅くまでちゃー坊の世話をしてから帰りました。
 その日の晩、彼女から電話がありました。電話の向こうで彼女の声がきゅーきゅーいっています。動物の毛で喘息の発作が起きてしまったのです。しゃべるのも大変そうです。親の猛反対もあり、今からすぐにちゃー坊を捨ててこないといけない、と泣きながら話をしてました。
 もともと動物は好きな彼女です。毛が飛ぶと発作が起きてしまうことも知っていました。ある程度予想はしていた結果なのですが、こんなに早く結末が来るとは予想外でした。
 結局その晩遅く、やっと見つけた引き取り手にちゃー坊を預けにいきました。たった一人でダンボール箱抱えて、夜道を歩いていった彼女に対して、何も出来ない自分が情けなかったです。箱の中で何も知らずに鳴いているちゃー坊を抱えて、さぞ辛かったことでしょう。
 再びいつもの帰り道が始まります。
 「みゃー」と野良猫が鳴けば「ちゃー坊?」 「ふぎーっ」と鳴いても「ちゃー坊?」 「わんっ」と犬が鳴いても「ちゃー坊?」とにかく私たちの頭からちゃー坊は離れていきません。
 「元気かな・・・」 「いつかまた飼いたいね・・・」
 なんだかんだと日々が経ち12月某日、ところは東京の玉川高島屋。女性客ばかりのぬいぐるみ専門店に突入する、長髪のむさくるしい男子高校生がいました。
 「あ”〜〜〜〜〜!ちゃー坊ぅ〜〜〜〜〜!」見つけました。ウリふたつのちゃー坊2号です。いや、そのものといったって過言ではありません。結構精巧に作られているため、ちょっと値が張りましたが、大枚はたいてその男子高校生はちゃー坊をゲットしました。帰りの電車でひとりニヤニヤして周りに悪影響を与えていたのはいうまでもなくこの私です。
 クリスマスの日、包みを開けた瞬間、彼女は「ちゃー坊が帰ってきた!」とポロポロ泣き出しました。よかったよかった。ホントによかった。
 でも本当は俺が欲しかったんだよな。そのぬいぐるみ。


いいことを思いついたら、気心の知れた友だちにまず話そう。人の思いつきの芽を摘むのが好きな人たちに出会う前に、熟成させる時間が必要だから。

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